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最新の「脳血管内治療」
脳動脈瘤に対する画期的なコイル塞栓術

新座志木中央総合病院
脳神経血管内治療科部長
脳卒中・血管内治療センター長
奥村 浩隆 先生

おくむら・ひろたか
山梨医科大学医学部卒業。京都府立医科大学附属病院、京都第一赤十字病院での研修後、社会保険神戸中央病院、和歌山県立医科大学附属病院、和歌山労災病院などを経て、昭和大学脳神経外科で8年以上カテーテルチームを引率。2021年12月より現職。日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医・脳神経血管内治療学会 脳血管内治療指導医。著書に「超解説! 急性期脳梗塞に対する血栓回収療法 Lesion cross,combined techniqueから頭蓋内ステントまで」(メディカ出版)などがある。また、臨床医学チャンネル「CareNe TV」では奥村先生がMCで各回ゲストを招いて「急性脳梗塞・血栓回収療法 マニアックトーク」を展開。血栓回収療法術者のスキル・レベルアップを図っている。

脳の動脈の一部が瘤(こぶ)のように膨らむ「脳動脈瘤」。近年、脳ドックなどで発見されるケースが増えてきていますが、瘤が破裂した場合は“くも膜下出血”を発症します。その破裂を予防するために行われるのが「脳血管内治療」です。患者の負担が少ない方法として、近年実施数が増えている同治療について、新座志木中央総合病院・血管内治療センター長の奥村浩隆先生に詳細を伺いました。

脳血管疾患に対するカテーテル治療のメリット

―――新座志木中央総合病院では2021年12月より脳神経血管内治療科を新設しました。チームを率いているのが奥村浩隆先生ですが、まずは血管内治療とはどういった治療法かお教えください。

奥村
一般的に脳血管内治療とは脳動脈瘤などの脳血管疾患に対するカテーテル治療を指します。大腿部から脳動脈瘤がある場所までカテーテルを通し、瘤の中にコイルを詰めて脳動脈瘤への血流を遮断(コイル塞栓術)して破裂のリスクを低減します。この治療法は大腿部からのアプローチであるため、頭部に傷をつけることなく治療ができるのが最大のメリットです※注1。

―――コイル塞栓術について教えてください。

奥村
脳動脈瘤にコイルを安定的に収めるためには、主に2つのアシストテクニックがあります。
1つは、コイルを詰めるためにバルーンでアシストする「バルーンアシスト」(図1-1)です。血管でバルーンを膨らませた状態にしてコイルを詰め、最後にバルーンを引き抜く方法となります。同方法はコイル以外の異物を残さないため、血栓が生じにくい点が一番のメリットですが、バルーンを抜いた後、コイルが不安定であると同時に血管内にコイルが飛び出してしまうリスクがあり、また、コイルの脇に大きな隙間(矢印)が残るため動脈瘤の再発の可能性が高くなることがあります。
2つ目は、コイルを詰めるまえ動脈にステントを置いて飛び出しを防ぐ「ステントアシスト」(図1-2)です。ステントがコイルを押さえ込み血管に飛び出さず、バルーンアシストで見られた隙間にもコイルが詰まるため、再発予防に有利です。一方、異物である長いステントが血管の中に残るため、血栓が生じやすくなり、脳梗塞を合併するリスクが高くなります。そのため、抗血小板薬(血を固まりにくくする薬)の長期投与が必要になります。

―――一長一短ですね。血栓による脳梗塞リスクを減らす方法はあるのでしょうか。

奥村
私は、MentorであるドイツのChapot先生より学んだ「the Roman Bridge Technique」( 図③ )を行っております。ステントを使用せず、バルーンにてステントアシストの様な隙間の無いコイル塊を作り上げる技術です。ポイントはコイルの飛び出しをきたさないように最適なコイル、サイズ、留置方法で行うことにより、ステントなしでも動脈瘤内にコイルを収めて安定させる技術です。この施術は難易度が高く、非常に特殊なコイルの詰め方をしているため、すべての先生がこの施術を行えるわけではありません。私自身、「the Roman Bridge Technique」に関する講演を全国各地で行っており、この世界のエキスパートたちから賛同を得られています。この施術が全国に広まれば、脳動脈瘤の血管内治療における脳梗塞のリスクは確実に減ると考えます。

脳梗塞に効果の高い「血栓回収療法」

―――脳梗塞の元凶である血栓を取り除く「血栓回収療法」についても教えてください。

奥村
脳は他の臓器と比べて酸素やエネルギーの必要量が格段に多い組織です。そのため、脳の太い血管が詰まると、1分間あたり190万個の神経細胞が壊死するとされています。したがって、血流を再開するまでの時間が非常に重要で、私はその時間短縮に努めています。通常30~50分かかるところを、今一番早い施術は5分30秒ほどです。

―――たった5分半!驚異的な数字ですが、どういった点を工夫して時間の短縮を図ったのでしょうか。

奥村
2つポイントがあります。1つは、1回の手技で再開通させる事。何回も回収を行わないと開通出来ないことがありますが、1回で確実に開通出来るように工夫しています。2つ目は段取りをしっかりしておくこと。カテーテル治療は施術者と助手との連係プレーが必要不可欠です。指示しなくてもスムーズに施術できる体制を整え、ロスを極力なくしています。ただし、カテーテルのワイヤーを素早く操作するというのは実はNG。素早く操作すると、血管に対して攻撃性が高まるので、素早く操作しても血管を傷つけない方法論を作り上げることが大事になってきます。

―――繊細な技術が必要なんですね。奥村先生が診療や施術で大切にされていることを教えてください。

奥村
一番大事にしているのは患者さんとのコミュニケーションです。病気に対する価値観を確認して治療方針を決めていきます。そしてリスクを含めていろいろな情報・選択肢を共有し、きちんと理解してもらうことを重要視しています。たとえば、板前の職業である患者さんだったら、手をケガするリスクがあるので、抗血小板薬を飲まなくてもよい方法を提案する――といった具合です。

―――今後の展望をお聞かせください。

奥村
まずは、ステントを使わないコイル塞栓術「the Roman Bridge Technique」を皆さんに認知してもらうことが1つ。もう1つは、現在、埼玉県は救急受入れ率が低いことが問題になっていますので、同じ考えの先生方と一緒に救急診療を円滑に受け入れる体制を作り、断らない診療体制を整えたいと考えています。
「number needed to treat(治療必要数)」という方程式があるのですが、これは、ある介入を対象者に行った場合、1人に効果が現れるまでに何人に介入する必要があるのかを表す数字で、カテーテル治療における血栓回収療法は「3」と非常に低い数字です(心筋梗塞は46)。脳梗塞は予後である自立的な生活が送れるかどうかが非常に重要ですから、治療効果の高い血栓回収療法は本当にお勧めします。今後は脳梗塞になった誰もがこの治療を受けられるような体制をこの新座志木総合病院で築きたいと考えています。

―――本日はありがとうございました。

※注1:造影剤を使用するため腎臓病の方には実施できません

新座志木中央総合病院
埼玉県新座市東北一丁目7番2号
TEL:048-474-7211(代表)